疾患の概要

原因遺伝子について

 アラン・ハーンドン・ダドリー症候群(Allan-Herndon-Dudley syndrome: AHDS)は、甲状腺ホルモン輸送体であるモノカルボン酸トランスポーター8Monocarboxylate transporter 8: MCT8)の機能が生まれつき低下しているために発症する疾患です。MCT8欠損症と呼ばれることもあります。MCT8の遺伝子(SLC16A2)はX染色体上にあるため、男の子に発症します。

 

甲状腺ホルモンの作用とAHDSの病態

 甲状腺ホルモンは全身のエネルギー代謝を調節すると同時に、小児期には身体の発育・成長、脳の発達や機能の維持に必須のホルモンです。甲状腺ホルモンは細胞の中(正確には核)で作用するため、甲状腺ホルモンが作用を発揮するには、細胞の中に取り込まれなければなりません。現在までに甲状腺ホルモンを細胞の内外に輸送する甲状腺ホルモン輸送体は、20種類以上みつかっています。その中で、MCT8は特に神経系において重要な輸送体と考えられています。そのため、MCT8の機能が低下しているAHDSの患者さんでは、主に神経系で甲状腺ホルモンが不足し、脳の発達・機能が最も大きな影響を受けます

 

AHDSの症状と診断

 AHDSは、成長にともなって最も目立つ症状がかわっていきます。生まれてすぐは、特徴的な症状はありません。乳児期は生後4-5ヵ月で首がすわらないことで気づかれます。その後、様々な神経症状が出現します。

·          アテトーゼ:ある時は全身に力を入れて反り返るのに、別の時は全身の力が抜けて首を支えることもできないというような、筋緊張が過緊張と低緊張のどちらかに極端にかたよる運動異常です。

·          痙性対麻痺:膝も足もピンと伸びて爪先立ちの状態で足が固くなる状態です。

·          入眠困難・睡眠障害:幼少時はなかなか入眠できず、泣き続けることも多いですが、年齢とともに改善していきます。

·          哺乳困難・嚥下(えんげ:食物を飲み下すこと)困難:体重が増えにくく、時に食べ物が肺に入り誤嚥性肺炎を起こすことがあります。

多くの方は穏やかで人なつこい性格です。

最近はAHDSのことがある程度分かってきましたので、検査を進める中で、特徴的な甲状腺ホルモンの値(fT4低値、fT3高値、TSH正常上限)から比較的早期に診断がつくことが多くなりました。

 

治療

 現在のところ本質的な治療法はなく、治療は対症療法が中心です。例えば、精神運動発達遅滞にはリハビリテーション、筋緊張が高いことによる股関節脱臼には装具を用いた矯正、経口摂取がむずかしく誤嚥性肺炎を繰り返すときは経鼻チューブあるいは胃瘻からの栄養補給などが初期治療として行われます。

 

今後の展望

 研究的には、MCT8以外のトランスポーターにより脳神経系に取り込まれる甲状腺ホルモン誘導体を用いた治療などが模索されています。有効性が証明されれば将来的に導入される可能性はありますが、まだ研究段階です。

 

 

大阪大学医学部附属病院 小児科 青天目

地域医療機能推進機構(JCHO 大阪病院 小児科 難波 範行

《平成28年10月29日 MCT8愛息子会交流会より》